磐梯山は厳冬期に2度登ったことがあるだけだった。いつでも登ることができるという気持ちと、登山者が多い山はあまり気が進まないということもあって、そのうちにと思いながら現在に至っている。しかし、そのうちとかいずれはなどどいう、あまり真剣見のない努力目標とすら言えないようなものは、得てして機会を喪失したまま結局やらないで終わるということもあり得る。この頃そんなことを考えるようになったのも年齢なのかもしれない。さて、26日は梅雨の晴れ間という予報を見て、午後からの仕事に間に合う半日で行ける山を考えた時、ふと磐梯山が脳裏に浮かんだ。自宅からの移動距離は蔵王などよりあるが何とかなりそうだ。そういえば以前聞いたことのあるバンダイクワガタという花も、ちょうど咲いている時期ではないだろうか。バンダイクワガタは磐梯山にしかない固有種なのだという。磐梯山は主な登山口が6つあるが、自宅からのアクセス時間が一番短い川上コースから登ることにした。磐梯山の登山コースの中では一番登山者が少なそうなのも好ましい。川上コースの登山口は近接して川上登山口と川上温泉登山口の2個所あったようだが、今は川上登山口だけとなっている。
車は登山口の表示板前に5台ほど止められる。新しい登山届入れも設置されている。スタート地点からして草に覆われているので、あまり登られていないことがうかがわれる。歩き始めると踏み跡程度の細い道が続く。すぐ北側に工事中の林道があり側を歩いていくが、やがて林道を離れて森の中へと入っていく。朽ちた道標のある分岐があり、左から廃道となった川上温泉登山口からの道と合流する。登山道は本当に細く踏み跡程度のうえ、草に覆われているのでよく足元を見ていないと見失いそうになるほどだ。目印となるものは時折ある赤布程度しかない。これが磐梯山登山コースのひとつなのかと疑いたくなるような道だが、自分としてはこんなマイナーな道も嫌いではない。ただし、慣れていない登山者は不安になるかもしれない。急に勾配が増した斜面を登りきりやや下り加減になると、松などに林相が変わって園地のようなところになる。
やがて左前方に櫛ヶ峰のザレた西斜面、前方には磐梯山南側の崩壊斜面が見えてくる。火口原になると堆積した砂や泥で登山道は不明瞭になるが、木杭や赤布が道筋を示しているので確認しながら進みたい。人の足跡はわずかに見かける程度でカモシカらしき足跡のほうが多いほど。やがて指導標があり裏磐梯登山口からのコースと合わせる噴気口分岐だ。ここからは岩のペンキマークに誘われ樹林へと入っていく。火口壁への取り付き斜面にある山頂まで1.8kmとの指導標は熊に痛められ半分になっていた。急勾配となり一気に高度を上げていく。より急な斜面にはU字型の手すりがありなかなか役に立つ。樹林を抜けると荒々しい火口壁の景観が広がる。先行者に追いついたのでバンダイクワガタ(磐梯鍬形)のことを聞いてみるとそこにあるよという。見れば青紫色の小さい花が咲いていた。初めて見るバンダイクワガタである。磐梯山の固有種ということもあり少ないのかと思ったが結構あるではないか。これ以降の登山道脇の岩場や砂礫にバンダイクワガタが咲いていた。
火口壁を登りきると櫛ヶ峰分岐だ。磐梯山の山頂も見えてくる。荒々しい火口壁に緑の山肌の美しい景観である。稜線をたどると前後に登山者が増えてきた。早くも下山してくる登山者もいる。左手には5年前に合宿した沼ノ平から赤埴山が見える。ミヤマキンバイの咲く黄金清水で喉を潤し、分岐を過ぎると弘法清水小屋に着く。小屋前で休憩中の人など登山者も増えてきた。弘法清水には5つの登山口からの道が集まるのだ。隣の岡部小屋の前を通過し分岐からひと登りで山頂だ。雲はあるが天気も良く独立峰ゆえの360度のパノラマが広がる。どちらを向いても素晴らしく眺めが良い。ふと足元を見ると山頂にもバンダイクワガタが咲いていることに気づく。しばし眺めを楽しんでから下山にかかる。ピストンなので来た道をたどるだけである。次は丸1日かけてゆっくりと歩いてみよう。(熊)