8月10日
3日目は行程が長いので午前6時に出発する。沢の水はまだウーロン茶色が残っていたが、水量は前日とは大違いでかなり減水していた。これなら遡行に支障ないとひと安心。10分ほど歩くと大滝が見えてきた。高さ60mと言われる朱滝だ。滝の下部がハングしているので右岸から回り込んで滝の裏見をしてみた。轟音とともに飛沫が叩きつける。さて朱滝も左岸を高巻く。200mほど戻ってガレ沢から登り右の小尾根に乗る。平坦になったら上流に歩き滝の音で検討を付けて斜め下降すると落ち口のすぐ上だった。高巻きに要した時間は1時間弱だった。朝から青空だったがようやく沢の中にも日が差し始めてきた。もう難所も無いと思うと気分も軽くなってくる。始めのうちこそ小滝が出てくるものの、やがて穏やかな平瀬が続くようになる。両岸も低くなり空が広がると開放的な渓相になる。左岸にヤケノママを見ると次は左岸に崩壊地を見る。
標高が上がってきたので針葉樹が多くなってきた。青空と相まって気持ちの良い景観だ。ところが昨日の奮闘で体力消耗の自分は足もザックも重くてペースが上がらない。軽快な足取りの千○にたびたび待ってもらう有り様だ。だいぶ水量も減ってきて源頭部の様相になる。二俣は全部左に入り遡行していくとやがてヤブが被り始める。沢から上がると周りには池塘が点在している。池塘を踏むのを避けて少し左のヤブに突入する。漕ぎ続けること40分ほどで登山道に出た。登山道脇で昼食にしていると行き交う登山者がやたらに多い。やっと今日が山の日だったことに気づき納得。下山は登山道なりに凡天岩〜西吾妻山〜西大巓と歩く。結構アップダウンがあり足にこたえる。積雪期には何度となく歩いている山域だが夏道は初めなので新鮮に感じた。天気が良いのでハイキング風情の登山者も多い。その中で腰にハーネスとガチャを下げている我々はかなり浮いている。
西大巓からの下りはぬかるんだ道で滑り転倒1回。重いザックは肩に食い込み痛いしで参った。千○も股ズレと疲れで遅れがちになった。グランデコスキー場からはゴンドラに乗って下山するパーティーが多いようだが、最後まで自分の足で歩くんだとばかりに砂利道を歩いて下る。草地ではアサギマダラが舞っているのが印象的だった。ゲレンデを道なりに歩いたので結構長く感じた。ようやくグランデコの駐車場に到着しガッチリ握手。デポしておいた車で中津川レストハウスに戻り遡行完了となった。
深山幽谷を遡行する醍醐味を味わえる中津川だが、今回何とか無事完遂出来てホッとしたとともに充実感に浸っている。増水などもあり奮闘の代償として身体はあちこち傷だらけだが、本来ならそこまで格闘系の沢ではない。雨と増水で臨機応変の対応を迫られたが、自分のこれまでの経験を総動員して対応し、何とか無事下山することができたのは素直に嬉しい。特に増水は遡行を継続できるかギリギリのレベルだった。平水ならなんでもなさそうなところも、泡立ち濁流となり絶対に落ちてはいけないという緊張を強いられた。渡渉したくても水流が強いため、流されないように場所を選ぶのに時間がかかり、ロープを出して渡渉したところもあった。他の記録は斜め読み程度しかしてなかったので情報収集不足の感はあった。高巻きでかなり時間をロスしたりといろいろあったのは否めない。よく読んでおけばよかったと思う反面、他人の記録を辿るような遡行にならず良い経験になったとも言える。とはいえ大滝の高巻きは経験を積むしかないとあらためて思った次第。相方の千○はボルダリングやロッククライミングをやっていることもあり、登攀のセンスが自分のようなコテコテの沢屋とはかなり違う。自分にとっては難しいヘツリもサクッとこなすので、ついていくのが大変だった。いずれにしても今回の状況では彼との2人でなければ遡行出来なかっただろうと思う。
できればもう一度訪れて今回見ることができなかった不忘滝も見たいという思いはあるが、比較的遡行しやすい渇水期は日が短くなるのでなかなか難しいことではある。中津川は平水時でも高巻きのルートファインディングと体力が重要ポイントになる。目印や踏み跡のたぐいはほとんどあてにできないし体力がなければ判断力も落ちてミスをする。今回の計画では行動時間を3日間で23時間30分としていた。実際は8日が4時間33分、9日が8時間36分、10日が10時間50分の計23時間59分なので、時間的にはほぼ計画通りとなった。もともと3日間と余裕を持たせた計画にしていたので、増水や高巻きでのロスは吸収できたということだ。平水で高巻きのロスが無ければ2日間で十分に遡行できるともいえる。しかし、距離と標高差が2日間に詰まる分それ相応の体力が必要になることを覚悟しなければならない。沢ヤにとって総合力が求められる中津川の自力遡行は目標にしたいことのひとつになる。遡行経験を重ねステップアップして総合力を高めてから中津川遡行を目指すべきだろう。(熊)
<千○くんの感想>
中津川はずっと行きたいと思っていた憧れの沢、今回遡行できて肩の荷が一つ降りた気がする。脚の速いパーティは一泊二日で遡行しているが、我々パーティは二泊三日かけてのんびり遡行した。雨による増水と停滞により当初の予定より時間がかかった為、結果的に二泊三日にして正解だったと思う。次々と現れる名を持つ数々の滝はどれも素晴らしいものであったが、それよりも雨により姿を現した枝沢から流れ落ちる名も無き滝一つ一つが寧ろ自分は強く印象に残った。増水し流れを増した川の渡渉は中々大変だったし、高巻きからのリカバリーでは少々肝を冷やしたが、終わってみれば旅のスパイスとしていい思い出となった。外界から隔絶された空間で毎日沢のことだけを考えて行動し、夜はぐっすり眠る。思えばとても贅沢な時間だった。計画お誘いいただいたリーダーの熊○さん大変お世話になりました。またシビれる沢をやりましょう!