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No.4643
飯豊山・本社ノ沢
飯豊山 2105.1m一等三角点峰
山行種別 山スキー
いいでさん・おむろのさわ 地形図

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山行期間 2012年5月31日(木)
コースタイム 大日杉小屋(6:50)→ザンゲ坂→長之助清水(7:33)→地蔵岳(9:10,9:25)→大又沢出合(9:43)→本社ノ沢出合(9:58)→左岸取り付き・1270m地点(10:27)→尾根稜線(12:07)→飯豊本山小屋(13:45,14:12)→本社ノ沢出合(14:47)→大又沢出合(15:07)→地蔵岳(16:45,16:55)→長ノ助清水(17:50)→大日杉小屋(18:24)
写真 写真は拡大して見ることが出来ます
静かな大日杉小屋 急勾配のザンゲ坂 御田の雪田
イワウチワが咲いている 地蔵岳と飯豊本山(左奥) 飯豊本山
夏道の尾根 大又沢へと下降する 大又沢出合
沢が口を開けている 本社ノ沢出合手前 出合から本社ノ沢下流側(沢幅が狭い)
出合から上流側を見ると山頂が見えた  右の枝沢を登る 本山小屋が見えてきた
やっと本山小屋に到着 山頂と飯豊連峰の主稜線 ダイグラ尾根の宝珠山
飯豊連峰最高峰の大日岳 本社ノ沢右俣から地蔵岳までが一望 下降するにつれ縦溝が出てくる
デブリ箇所が近づく デブリで滑るラインがない 400mの登り返し急斜面

行動記録
 本社ノ沢(おむろのさわ)は飯豊本山の東斜面を源頭とする沢だ。この沢がいつからスキー滑降の対象となったのかわからないが、そう古いことではないようだ。さらに日帰りで本山往復をトレースされるようになったのは比較的近年のことのようで、西川山岳会など一部の愛好家が滑降対象としている。しかし、ネットで記録を散見するようになると、本社ノ沢を知る人も実際滑った人も増えてくる。かくいう自分もそうなのだが、山スキー2シーズン目の昨年はまだ自分には難しいように思えた。ましてや単独でなど考えられなかった。地蔵岳を経由した本社ノ沢から本山へは、ルート取りに特徴があり、往路は大日杉から地蔵岳へ900m以上登ると大又沢へ約400m下降し、再び飯豊本山へ1000m近く登ることになる。復路はまた400mの登り返しが待っているので、単純累積標高差は2300m以上にもなる。ルート延長こそ15kmほどだが、ルートファインディングが必要なこともあり、篤志家向けのルートといえる。初めて記録を見て以来、そのダイナミックなルート取りと飯豊本山山頂からの滑降という魅力に惹かれ、いつかは自分もと思っていた。山スキー3シーズン目の今年になり、急斜面の処理にある程度慣れてきたこともあり、本社ノ沢も滑降対象として考えられるようになってきた。後は時期と相方だが、休日を全部スキーに当てるわけにも行かず、その他の山行もあり、そうこうしているうちに5月も下旬となってしまった。今年は時期を逸してしまいもう無理だろうと思ったが、どうにも気持ちが残っている。よし思い切って駄目もとでやってみよう。中途退却となっても来シーズンの調査にはなる。5月末日に休日出勤の代休を当て、単独で本社ノ沢に向かうことにした。
 朝から天気予報通りの快晴。大日杉小屋までの道は19日に除雪が完了し開通したばかりだというが、周囲を見ても雪はすっかり消えていた。平日なので大日杉の駐車スペースには5台程度。ブーツとスキーを付けたザックを担ぐとずっしり重い。雪の上をツボで歩くことも考え、足下は万能靴(長靴)とした。計画では行動時間を12時間と想定し、午前5時にスタートする計画を立てていた。しかしスタートは6時50分になってしまった。遅くなったのは自分のせいだが、行動時間が長い山行でスタートの遅れは致命的。この時点で山頂までは困難かとの思いもよぎる。20分ほど登るとザンゲ坂。クサリを掴んで登ると登山道は尾根道になり、単独行のご婦人を追い抜く。スキーを使わない急登は久しぶりで、たちまち汗が噴き出る。山は緑も濃くなり、春山というよりは初夏の感じさえするようになっている。スキーを担ぎ長靴で歩いている自分が滑稽にさえ思えてくる。長之助清水でザックを降ろす。清水まではすぐだが足場が悪いので注意したい。標高1000mほどにある小湿地の「御田」は、残雪が雪田のようになっていた。高度を上げると左手には三国岳などが見えてくる。その後も雪が現れては消えで、あわよくば途中からスキーでとの目論見も雪のように消え去った。それにしても羽虫がうるさい。大群が自分にまとわりついてくる。始めは追い払っていたが無駄だと悟ると、あとはもう放っておくしかなかったが、たまに口にまで入るのには参った。
 前方にピークが近づき、地蔵岳かと思えば、それはだまし地蔵のピークで、左から巻くとやっと本当の地蔵岳が見えた。標高1500mも近いので残雪も増えてきたが、やはり尾根は所々ヤブが出ている。結局スキーを担いだまま、9時10分に地蔵岳到達。長靴でスキーを担いでの2時間20分はまあまあのタイムか。地蔵岳からは正面に本山が見え、主稜線も一望出来る。左手に伸びる尾根を辿れば、切合小屋を経由して本山へと至る。本山の斜面を見ると、本社ノ沢は山頂から駆け下る右俣と左俣が中腹で1本に合わさることがわかる。右俣左俣どちらも中間部にデブリの黒い筋が見える。どちらを滑るかは登りながら考えるとしよう。山頂への登高に使う尾根は雪が切れているようで、斜面側をトラバースするしかないように思える。少々不安になるが、どうするかは登ってみてから決めることにしよう。地蔵岳から本社ノ沢へ下るルートがわからないが、登山道なりに南へ少し移動するとコルから下る沢筋が見え、そこを下降点とする。長靴をザックにしまい込み、今日初めてスキーを履くと滑り始める。急斜面で幅が狭く、縦溝や倒木もありはなはだ滑りにくいが、横滑りを多用しながらなんとか大又沢に下りた。苦労して稼いだ400mの高度も失うのは簡単だ。降り立った大又沢は雪で埋まっていた。
 再びスキーを担いで下流に向かって歩くと、雪渓がすっかり落ちて沢が大きく口を開けている。もし沢に落ちて下流の雪渓の下に呑み込まれれば万事休す。沢水は雪解け水そのままの水温なだけに、落ちただけでも命にかかわる。今日は単独で無理は出来ないので、退却の二文字が頭に浮かぶ。しかし、しばらく眺めていると、右岸から巻けそうなことに気付く。慎重に巻き無事クリアする。その下の口を開けていたところもクリアすると本社ノ沢出合だ。出合付近の雪渓も大きく変形しクラックが入り、崩壊も近いのではと思われる。危険地帯は素速く通過し、本社ノ沢を少し登ってスキーにシールを付ける。やっとシール登高の開始だ。山頂までは1000m近い高度差を登り上げなければならない。雪面はかなり荒れていて歩きづらいが、この時期なので仕方がない。登っていくと沢幅が広くなり明るい感じになってくる。正面には本山が少しずつ大きくなってきた。標高1250mを過ぎると、右手の尾根に登れそうな枝沢が見えてくる。周囲を見ても、雪がつながりシール登高できそうな沢はここしかないようだ。この枝沢へ入りさらに登っていくが、見た目より勾配が急できつい。ジグを切り登るが、縦溝が出来ているところもあり登りづらい。ついにはエッジを外してしまい、10mほど落ちてしまった。スキーを見るとシールが剥がれかかっている。粘着力が弱くなっていたのだが、そのうちにと思いながら手入れを怠っていた。勾配がかなり急になってきたこともあり、スキーを諦めてツボ足に切り替える。GPSを見ると標高1600m地点だった。やれやれとキックステップで斜面を登るが、さらに傾斜を増す斜面の直登を諦め、右隣の斜面へとブッシュを越えて移る。
 それにしてもかなり足にきている。疲労からペースダウンしていたが、もう戻ろうかと気持ちまでダウンしてくる。しかし、せめて尾根には上がりたい。それから考えようと思い頑張る。雪が切れたところで笹ヤブをかき分けさらに登ると、やっと山頂までの尾根が見え、その先に山頂小屋のトイレらしき建物も小さく見える。こうなると欲が出てくる。ここまで来たら戻っても登ってもそう違いはない。山頂目指してゆっくりゆっくり歩いていく。尾根の稜線そのものはブッシュが出ているので、南斜面の雪渓上端をトラバースしていくのだが、雪が柔らかいこともあり不安はあまり感じない。まとわりついていた虫軍団も、標高1800m辺りでいなくなってしまった。それにしても山頂がなかなか近づかない。見えていることは良いようで悪いときもある。辛い登りに耐え13時45分山頂小屋到着。飯豊山の山頂はここより3m高いに過ぎないが、西に650mほど離れている。往復する時間も体力も無いので今日はここまでとする。到達した達成感に浸っていると後から声をかけられ、誰もいないと思っていたので驚く。声をかけて来た単独男性と話しをすると、HPを拝見したこともある恒さん(本社ノ沢を滑ったこともある)だった。今日は小屋泊という恒さんに手を振るといよいよ滑降だ。
 小屋直下の本社ノ沢右俣を滑ることにする。斜面に飛び込むと、ちょうど良いミゾレのフラットな斜面で気持ちよくターンが決まる。眼下に本山東斜面を一望しながらの滑降は痛快の一言だ。こんな時は自然と雄叫びを上げてしまう。ここまでの辛い登りはこのためなら納得出来ると思う。しかし楽しい時間は長くは続かない。やがて、斜面に縦溝が現れてくるとターンがしづらくなる。下から見えていたデブリは、近づいてみると結構規模が大きい。そのため滑る幅もないところでは、何度か階段下降をしなければならなかった。それでも本社ノ沢を滑るという醍醐味は十分味わえた。本社ノ沢出合でスキーを脱ぐと、疲れて集中力が低下しているであろう自分に気合いを入れ、再度沢の開口部を慎重に通過する。
 地蔵岳から下りてきた沢の登り返しは、雪が悪くスキーでは無理なのでキックステップで登り返す。水も残り少なくなりザラメ雪を補充する。400m登るのにこれほど辛かったこともあまり無い。足を動かしていればいつかは着くと自分を励ます。地蔵岳の山頂はカットして巻きたかったが、雪が切れていて断念し山頂まで登る。地蔵岳山頂には16時45分着。スキーと兼用靴をザックにくくり長靴を履く。短時間の休憩の後、飯豊本山に別れを告げると忠実に登山道を辿り下山する。大日杉には18時25分着。所要時間11時間35分の山行を終了した。
※本社ノ沢は山スキー愛好家なら、1度はチャレンジしてみたいルートだろう。ただし、平年における時期は5月中旬あたりまでが適期かと思う。それより遅いと沢が口を開ける可能性が高くなる。大日杉までの除雪が終わらなくとも、少々歩けば良いだけのこと。条件にもよるが、それなりに体力と技術を兼ね備えたパーティーに、是非チャレンジしてもらいたいルートと言える。いずれにしても、エスケープルートなど無いので、計画・装備・体調には万全を期したい。次の機会にはもっと早い時期にやってみたいが、ラッセルが想定される場合は、多人数のパーティーが必須となるだろう。(K.K)

トラック 登り=赤 下り=青


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