2年ぶりに御神楽岳霧来沢を遡行して前ヶ岳南壁のスラブを登ることにした。今年は早めに計画を立て、土曜日は尾根を挟んだ鞍掛沢を遡行し、日曜日はV字スラブという歳も考えない意欲的な計画をぶち上げていた。南壁のV字スラブと言っても何本ものルートがあるが、第1スラブか第2スラブか現地判断で登ることとした。しかし、よく考えてみれば鞍掛沢は上手くいっても行動時間が結構かかるだろう。日の短いこの時期はヘッデン下山もありうると思うと、翌日のためにもリスクは避けたい。もはや勢いで登れるほど自分もメンバーも若くはないのだ(20代の○島は別にして)。特に自分と中井○さんは還暦コンビなのだ。そんな思いになっていたところ、ちょうど都合よく?土曜日の天気があまり良くない予報になった。これ幸いと天気のせいにして土曜日の鞍掛沢はキャンセル。日曜日のV字スラブ1本にすることにして、土曜日は道の駅奥会津かねやまへ移動し翌朝現地に向かう計画に変更した。
夜は雨が降ったが朝には上がっていた。霧がかかっているがじきに晴れるだろう。御神楽岳登山口へと国道252号を走り、本名ダム手前から右手の林道へ入る。しばらく走ると工事中で通行止めになってしまった。そういえば2年前も同じ場所の工事が終わったばかりだったのを思い出す。通行止めの手前脇に車を停めて歩いたが、御神楽岳登山口までは早足で20分ほどかかった。ロープが張られた登山口から2キロ弱歩き、適当なところから霧来沢に入った。今日はスラブ登りなので全員ラバーソールの沢靴だが、ヌメる岩ではツルツルと滑りまくる。鞍掛沢出合を過ぎるころ霧が晴れて青空が見えてきた。
二俣に突き当たると右俣へ進む。小さな何の変哲もない沢だが、ヒラタケとナメコを見つけたのでいただく。キノコ目になるとスローペースになるが、それも前ヶ岳が見えてくるまでのことだ。V字に切り取られた紅葉の両岸の先に前ヶ岳が見えてくると、否が応でも気持ちが切り替わる。ここまではアプローチであり序章だったが、前ヶ岳南壁のスラブ群が観察できるようになると気持ちが高揚してくる。沢は二俣となりV字スラブへと駆け上がる右沢に入る。
右沢は傾斜のあるゴーロで大岩の間を縫うように高度を上げていく。左岸に右スラブへと繋がる枝沢を見送ると、右岸は大きな崩壊地となり足早に通過する。わずかに水の流れる小滝を右から登り、その後もいくつか小滝を越えて薄いヤブを抜けるといよいよスラブ登りとなる。フリクションの効く岩質で傾斜もまだ強くないので、高度感はあるがロープは出さず快適に登っていくことができる。青空を背景にした第1〜第4の各V字スラブを見上げると目線は第1スラブに向かった。やはり今日は第1スラブを登ることにしよう。
登っていくといったん傾斜が緩む所があり休憩することができる。ここがV字の広場というところだろう。この上は傾斜が強くなるのでロープを出すことにした。やっと打った浅いハーケンにビレイを取り、強い傾斜の凹角状にロープを伸ばす。ライン上にかなり古い残置ボルトが2箇所あった。ランニングは残置と潅木に4箇所取った。50mロープいっぱいで潅木に支点を取り後続を上げる。その後は傾斜はあるもののロープなしで登攀を続ける。さほど難しくはないのだが何しろ高度感が凄い。絶対に失敗は許されないという緊張感が続く。
第1スラブと第2スラブの出合下から右手の第1スラブへと入っていく。登りやすそうに見えた右寄りにラインを振ったが、行き詰まりそうになり中井○さんリードでロープを出した。その後は立ってはいるがホールド・スタンス十分でありロープを出さなかった。足並みのそろったパーティーならロープを一度も出さずに登れるかもしれないが、メンバーによって判断することになるだろう。いよいよ稜線が近づくと階段状になり登りやすくなる。最後は潅木のヤブを少し漕ぐと稜線に到達した。
稜線に登山道はないが微かな踏み跡があり、登山道目指して東へ向かう。御神楽岳管理舎(避難小屋)までは地図上で400mほどだが、今回は約30分と思ったより時間がかかった。少し休憩してから避難小屋を後にすると、今回は本名御神楽は踏まずに下山することにした。秋の日はつるべ落としなのだ。登山道の途中からスラブを眺められるポイントがある。逆光でより壮絶な印象のスラブを見ると、よくぞあんなところを登ったものだと思う。汗をかきながら下山を急ぎ、暗くなる前に何とか車まで戻ることができた。天気も当たり2年前と同様の素晴らしい晴天と同行したメンバーに感謝である。(熊)