Fukushima toukoukai Home page
No6349
中津川
吾妻山 長瀬川流域
山行種別    無雪期沢登り
なかつがわ 地形図

トップ沢登り>中津川

山行期間 2020年8月8日(土)〜10日(月)
コースタイム
8月8日
中津川レストハウス(9:48)→入渓(9:55)→白滑八丁(10:24〜10:59)→魚止の滝(11:43)→取水堰(12:53)→観音滝(14:06)→テン場(14:21)
8月9日
テン場(8:20)→神楽滝(10:34)→夫婦滝(13:08)→静滝(13:45)→熊落滝(14:11)→テン場(16:56)
8月10日
テン場(6:00)→朱滝(6:15)→ヤケノママ(8:09)→登山道(12:02,12:21)→西吾妻山(13:06)→西大巓(13:53,14:10)→ゴンドラ駅(15:43)→グランデコ駐車場(16:50)=中津川レストハウス(17:40)
写真 8月8日 写真は拡大して見ることが出来ます
中津川レストハウスに車を置く 中津川渓谷 始めはゴーロ
やがてV字の両岸になり白滑八丁が始まる 千○くんは苦も無くへつっていく 自分は残置を利用
ワラジはフェルトより滑りにくい ふたたびゴーロになる 魚止の滝15m
左岸のルンゼから高巻く やや増水してきたが遡行を続ける 水線通しで進む
ヘツれるところはへつる
取水堰の堰堤 銚子口
あきらかに増水してきた 5m滝は右壁を直登 水かさが増した沢をへつりで進む
観音滝20m テン場を早めに探すことにした 雨の中タープを張る

行動記録
 吾妻山の沢は数々あるが、渓谷の大きさや遡行の長さと滝などにより三大渓は松川と塩ノ川に中津川ともいわれている。その中でも中津川は最も古典的なルートであり、その昔は軌道跡の登山道が左岸についていてルートも整備されていたので良く遡行されていたようである。自分は中津川を2014年7月に一度遡行しようとしたのだが、アクシデントにより中途退却したままとなっていた。松川と塩ノ川は遡行しているので、次は中津川とそれ以来思っていたのだが、なかなかタイミングを掴むことができずに時間ばかり過ぎてしまった。先月千○くんと話していると彼が中津川の遡行を考えていることを知り、とんとん拍子に2人で行くことになった。中津川は2日で遡行しているパーティーもあるが計20時間以上の行動時間が予想される。自分の年齢と雨の可能性も考えると3日間の日程が望ましい。3日間なら朝自宅を出てから帰宅までを8/8〜8/10の連休で完結できる。そう決めたものの天気が不安定で予報も毎日変化する。前日までやきもきしながら悩んだが、初日の雨さえしのげばそれ以降は回復するように思えたので決行することにした。撤退もしくはエスケープも覚悟のうえである。
8月8日
 千○くんと落ち合ってグランデコスキー場に移動する。夏場もゴンドラ営業しているので、客の車のない下の駐車場に車をデポさせてもらった。中津川レストハウスの駐車場に移動すると店員さんに3日間車を置かせてもらう断りを入れる。準備をしていよいよスタートだ。自分のザックは大きく重いが千○くんは持ち物をギリギリまで削ったとのことで、マットとロープが外出しとはいえ小さい。レストハウスの脇から遊歩道で沢まで下りる。左岸を少し歩いてから入渓する。暑い日なら水遊びの人たちで賑やかなのだが、今日は曇り空で気温も涼しいくらいなので誰もいない。水量は平水という感じで遡行には問題なし。やがて白滑八丁だ。V字の傾斜の強いスベスベの白い岩が続く。ここはフリクションの限界近いので気を抜くと落ちてしまう。ところが千○くんはスタスタとあっけなく歩いていくではないか。自分はといえばザックは重いし迂闊に一歩を出せば落ちそうになるしで苦戦する。一番厳しいところでは残置ハーケンがあり利用する。さらには白滑八丁用に持ってきたワラジを履いて突破。今回はヌメリもなかったので千○くんのラバー底がマッチしたようだ。滑る気がしなかったそうである。ずっとフェルトひと筋の自分だがラバーも試してみたくなった。
 白滑八丁が終わったころに雨が降り出し結構本降りになる。そのまま遡行を続けているとやがて小雨になった。15mの魚止の滝が現れる。平水なら直登も可能と思えるがもちろん今日は高巻きだ。左岸のルンゼから難なく巻いて沢に戻る。昼食を取ってから遡行を再開する。しばらく進むと取水堰になり千○は堰堤を直登するが、自分にはマネできないので魚道を使って越えた。大きな釜のある銚子口は前回撤退したところだが左岸からへつって越える。あきらかに沢が増水してきたが先ほどの降雨の影響が現れてきたようだ。水はまだ濁っていないので遡行を続けるが、水流は落ち込みで白く泡立ち始めやや緊張しながらの遡行となる。
  5m滝は右壁を容易に直登できるが千○はあえて水流近くの被り気味のラインで登り楽しんでいる。20mの観音滝は左岸から高巻くが昔の道跡が残っていた。小雨が降り続けているので少し早いがテン場を探すことにした。増水を考えるとあまり沢の近くの低いところにはしたくない。右岸の斜面が緩やかになったところを10mほど登ってみると、狭いながらも数人は何とかなりそうな平場を発見した。少し上流も偵察したが濡れネズミの状態を何とかしたくて早々とテン場に決定した。小雨が降り続けるなか、笹を刈って敷き詰めタープを張る。乾いた衣類に着替えると人心地ついた。酒をちびりちびりやってから夕食を済ませる。午後6時頃にようやく雨が上がったが焚火をするのは諦めた。暗くなり始めると下から聞こえる沢音は轟々と激しさ増してきたようだ。早めにテン場に逃げ込んで正解だった。酒がほとんど飲めない千○はビール一杯で午後6時半には寝てしまった。自分は今日の分の酒を飲んでしまい焚火も出来ないときてはすることも無くなった。やがてタープを叩く雨音を聞きながら午後7時頃には寝てしまった。何度か目が覚めたが雨は夜通し止むことはなかった。

写真 8月9日 写真は拡大して見ることが出来ます
増水は残っているが遡行は可能
平瀬は水量多いが意外に穏やか
中津川森林軌道の橋脚遺構
増水で小滝も簡単には越えられない 絶対に落ちたくないへつり ひとつずつ課題をクリアしていく
左岸の崩壊斜面 右岸のスラブ 平水なら必要ない懸垂下降
神楽滝40m 高巻きミスで苦労して乗った尾根のルート表示板
夫婦滝10m
静滝15m 熊落滝15m 高巻き中に見えた左岸枝沢の滝
まだウーロン茶色の沢 枝沢出合近くをテン場とした 焚火を楽しむ

行動記録
8月9日
 タープを叩く雨音は朝になっても止むことはなかった。モチベーションも上がらず予定した午前6時にスタートする気にはなれなかった。いっそ強い雨なら今日は停滞との考えも頭をよぎったが、明日の行程を考えるとかなり無理がある。今日は出来る限り進んでおきたいのでシュラフからのそのそと這い出す。ラーメンの朝食を済ませるとやっと8時20分頃沢に降りた。沢はやや増水が収まっていたものの水量は多くウーロン茶色の流れである。なんとか遡行はできそうなので出発することにした。すぐ右岸寄りの岩の上にちょこんと乗ったような古い橋脚(後で調べると中津川森林鉄道の橋があったようだ)が現れた。この橋脚は上を見ていないと見逃してしまいそうだ。
 今日は増水により遡行難度がかなり上がている。平水なら何でもないところでも流される危険性を感じる。白く泡立つ水流を下に見ながら重いザックでの際どいヘツリは、いやがうえにも緊張感が高まる。自分のそんな状況にもかかわらず千○は楽しんでいるようだ。水線通しには越えられない小滝が現れた。細いロープが下がっている右岸の岩の裏から登った。長いゴーロ歩きの単調な区間が続くが、所々にある増水でやっかいな個所がアクセントになる。途中ちょっとしたところが越えられず5mの懸垂下降をする。
 やがて左岸に支沢である権現沢の滝を見ると本流には神楽滝が現れた。高さ40mとされている堂々とした直瀑で多めの水量も相まって迫力がある。ここは左岸巻きのようだが目印や踏み跡は期待できないだろう。見ると滝の手前左岸のルンゼが登れそうに思えた。2人の意見も一致したので登り始めたがかなり急だ。登っていくとさらに立ってきて足掛かりは不安定な泥だけとなり行き詰ってしまった。千○とトップを交替すると空身になった彼にロープを託す。彼は脆い岩壁を斜め右上へ逃げて立木でピッチを切った。さらに登って2ピッチ目、トラバースしてルンゼを越え小尾根に乗ろうとしたものの断念し、さらに直上するなど細かくロープを計4回伸ばしてやっと小尾根に乗った。自分はロープで確保してもらっているものの、ザック2つを背負っての登攀は大変だった。小尾根に乗ると傾いた大木に赤いルート表示板(昔の登山道か)のようなものがあり、やはりこっちだったかとルートミスを悟る(後で調べると過去に同じミスをしたパーティーもいたようだ)。他の記録では1時間とかからずに巻いているのだが我々はなんと2時間20分。ヘトヘトになり大幅に時間と体力を消耗してしまった。沢に降りると夫婦滝の前でいつしか雨も止んでいた。ここは左壁にクサリがあったが昔のルートなのだろう。クサリの上部は針金に繋がっていたが古さを考えるとあまり頼らない方が賢明だ。次の静滝を右岸から小さく巻くとやがて轟々と水を落とす熊落滝が現れた。熊落滝の高さは15mほどだが両岸の側壁がそそり立ち岩の伽藍となり素晴らしい景観だ。沢は熊落滝の上で右へ屈曲しそこにも滝があるようだが水煙しか見えない。その滝は不忘滝というようで高さ60mとされているがいつか見てみたいと思う。
 熊落滝も左岸巻きだが不忘滝を意識しすぎて急斜面を標高差で150mの平坦地まで登り切ってしまった。その後北へ300mほど移動してから斜面を下り最後は懸垂下降で沢に戻った。我々はこの高巻きに1時間50分を要したが、他の記録によると平坦地まで登らず途中からトラバースして巻けば懸垂無しで1時間ほどの高巻きで沢に降りられたようだ。大きく巻いたので筋滝などいくつかの滝の上に出てしまった。やれやれ今日は神楽滝といい熊落滝といい自分のルートファインディング能力のなさにはガッカリする。高巻きに時間を要したことで既に午後4時半である。テン場を探しながら遡行していくと右岸の支沢出合のすぐ上流になんとか2人分の平場を見つけた。沢より数m高いので増水の心配もない。さあ今日は焚火がやれる。湿気た木でも工夫して着火するとやがて火は大きくなり安定した。濡れた服を乾かしながら暖まる。千○は今日もビール一杯で午後8時前には就寝。自分は焚火を眺めながら残りの酒を飲み干し午後10時近くになってからようやく寝た。

写真 8月10日 写真は拡大して見ることが出来ます
水量はほぼ平水になった 大滝が見える 中津川最大の朱滝60mクリックすると全体を見ることができます
左下に小さく自分が写っている 上流は穏やかな渓相 小滝がいくつか
開けて河原歩きになる
ヤケノママ 左岸の崩壊斜面
1,575m二俣を左へ
稜線が見えてくる
登山道が近くなる
40分ほどヤブを漕いで登山道に出た 凡天岩へ登る
振り返れば吾妻連峰の主稜線
凡天岩からの西吾妻山 西吾妻山の山頂は展望無し 赤い屋根は西吾妻小屋
夏は初めて歩く登山道 西大巓山頂 蜜を吸うアサギマダラ
ゲレンデを下る ゴンドラ山頂駅 スキー場のセンターハウス到着

行動記録
8月10日
 3日目は行程が長いので午前6時に出発する。沢の水はまだウーロン茶色が残っていたが、水量は前日とは大違いでかなり減水していた。これなら遡行に支障ないとひと安心。10分ほど歩くと大滝が見えてきた。高さ60mと言われる朱滝だ。滝の下部がハングしているので右岸から回り込んで滝の裏見をしてみた。轟音とともに飛沫が叩きつける。さて朱滝も左岸を高巻く。200mほど戻ってガレ沢から登り右の小尾根に乗る。平坦になったら上流に歩き滝の音で検討を付けて斜め下降すると落ち口のすぐ上だった。高巻きに要した時間は1時間弱だった。朝から青空だったがようやく沢の中にも日が差し始めてきた。もう難所も無いと思うと気分も軽くなってくる。始めのうちこそ小滝が出てくるものの、やがて穏やかな平瀬が続くようになる。両岸も低くなり空が広がると開放的な渓相になる。左岸にヤケノママを見ると次は左岸に崩壊地を見る。
 標高が上がってきたので針葉樹が多くなってきた。青空と相まって気持ちの良い景観だ。ところが昨日の奮闘で体力消耗の自分は足もザックも重くてペースが上がらない。軽快な足取りの千○にたびたび待ってもらう有り様だ。だいぶ水量も減ってきて源頭部の様相になる。二俣は全部左に入り遡行していくとやがてヤブが被り始める。沢から上がると周りには池塘が点在している。池塘を踏むのを避けて少し左のヤブに突入する。漕ぎ続けること40分ほどで登山道に出た。登山道脇で昼食にしていると行き交う登山者がやたらに多い。やっと今日が山の日だったことに気づき納得。下山は登山道なりに凡天岩〜西吾妻山〜西大巓と歩く。結構アップダウンがあり足にこたえる。積雪期には何度となく歩いている山域だが夏道は初めなので新鮮に感じた。天気が良いのでハイキング風情の登山者も多い。その中で腰にハーネスとガチャを下げている我々はかなり浮いている。
 西大巓からの下りはぬかるんだ道で滑り転倒1回。重いザックは肩に食い込み痛いしで参った。千○も股ズレと疲れで遅れがちになった。グランデコスキー場からはゴンドラに乗って下山するパーティーが多いようだが、最後まで自分の足で歩くんだとばかりに砂利道を歩いて下る。草地ではアサギマダラが舞っているのが印象的だった。ゲレンデを道なりに歩いたので結構長く感じた。ようやくグランデコの駐車場に到着しガッチリ握手。デポしておいた車で中津川レストハウスに戻り遡行完了となった。
 深山幽谷を遡行する醍醐味を味わえる中津川だが、今回何とか無事完遂出来てホッとしたとともに充実感に浸っている。増水などもあり奮闘の代償として身体はあちこち傷だらけだが、本来ならそこまで格闘系の沢ではない。雨と増水で臨機応変の対応を迫られたが、自分のこれまでの経験を総動員して対応し、何とか無事下山することができたのは素直に嬉しい。特に増水は遡行を継続できるかギリギリのレベルだった。平水ならなんでもなさそうなところも、泡立ち濁流となり絶対に落ちてはいけないという緊張を強いられた。渡渉したくても水流が強いため、流されないように場所を選ぶのに時間がかかり、ロープを出して渡渉したところもあった。他の記録は斜め読み程度しかしてなかったので情報収集不足の感はあった。高巻きでかなり時間をロスしたりといろいろあったのは否めない。よく読んでおけばよかったと思う反面、他人の記録を辿るような遡行にならず良い経験になったとも言える。とはいえ大滝の高巻きは経験を積むしかないとあらためて思った次第。相方の千○はボルダリングやロッククライミングをやっていることもあり、登攀のセンスが自分のようなコテコテの沢屋とはかなり違う。自分にとっては難しいヘツリもサクッとこなすので、ついていくのが大変だった。いずれにしても今回の状況では彼との2人でなければ遡行出来なかっただろうと思う。
 できればもう一度訪れて今回見ることができなかった不忘滝も見たいという思いはあるが、比較的遡行しやすい渇水期は日が短くなるのでなかなか難しいことではある。中津川は平水時でも高巻きのルートファインディングと体力が重要ポイントになる。目印や踏み跡のたぐいはほとんどあてにできないし体力がなければ判断力も落ちてミスをする。今回の計画では行動時間を3日間で23時間30分としていた。実際は8日が4時間33分、9日が8時間36分、10日が10時間50分の計23時間59分なので、時間的にはほぼ計画通りとなった。もともと3日間と余裕を持たせた計画にしていたので、増水や高巻きでのロスは吸収できたということだ。平水で高巻きのロスが無ければ2日間で十分に遡行できるともいえる。しかし、距離と標高差が2日間に詰まる分それ相応の体力が必要になることを覚悟しなければならない。沢ヤにとって総合力が求められる中津川の自力遡行は目標にしたいことのひとつになる。遡行経験を重ねステップアップして総合力を高めてから中津川遡行を目指すべきだろう。(熊)

<千○くんの感想>
 中津川はずっと行きたいと思っていた憧れの沢、今回遡行できて肩の荷が一つ降りた気がする。脚の速いパーティは一泊二日で遡行しているが、我々パーティは二泊三日かけてのんびり遡行した。雨による増水と停滞により当初の予定より時間がかかった為、結果的に二泊三日にして正解だったと思う。次々と現れる名を持つ数々の滝はどれも素晴らしいものであったが、それよりも雨により姿を現した枝沢から流れ落ちる名も無き滝一つ一つが寧ろ自分は強く印象に残った。増水し流れを増した川の渡渉は中々大変だったし、高巻きからのリカバリーでは少々肝を冷やしたが、終わってみれば旅のスパイスとしていい思い出となった。外界から隔絶された空間で毎日沢のことだけを考えて行動し、夜はぐっすり眠る。思えばとても贅沢な時間だった。計画お誘いいただいたリーダーの熊○さん大変お世話になりました。またシビれる沢をやりましょう!

.ルート図 1日目=赤 2日目=水色 3日目=青
電子地形図(タイル)(標準地図)を加工して作成

トラック 登り=赤 下り=青

 トップ



Copyright(C) 2020 福島登高会 All Rights Reserved.