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No.4629
鳥海山・中島台
新山 2236mピーク
山行種別 山スキー
ちょうかいさん・なかじまだい 地形図

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山行期間 2012年4月30日(月)
コースタイム 林道駐車地点(5:22)→750m地点(6:14)→七五三掛付近(9:30)→新山山頂(11:07,11:47)→赤川右俣(12:10→)750m地点(13:02)→林道駐車地点(13:44)
写真 写真は拡大して見ることが出来ます
中島台レクリエーションの森の駐車場 獅子ヶ鼻の取水口手前の駐車地点 朝の森の中を歩く
750m地点は赤川支流と鳥越川に挟まれた特徴的な地形 稲倉岳から鳥海山への稜線 稲倉岳を右手に見て登る
左の七高山と右の新山の中央に北斜面 雪洞に泊まったパーティーもいた 七五三掛付近を登るKさん
素晴らしいロケーション 右手の外輪山と左手に荒神ヶ岳 Iさんパーティーが下りてきた
大物忌神社が見える 来た斜面の下降点より眼下を眺める 素晴らしいバーンだ
急斜面だがザラメなので不安はない この方もテレマークだがとても上手い 東北電力の取水口

行動記録
 2年前に初めて山スキーで鳥海山に登った。いや、正しくは夏も冬も含め、鳥海山という山に登ったこと自体が初めてだった。鳥海山は周囲に比肩する山もない独立峰であり、遠く四方からよく見える。そのどっしりとした存在感は、周囲を圧するようでもあり、見守っているようでもある。その裾野はほとんど海にまで達しているから、よけいに大きさと高さが際だって感じられる。鳥海山には多くの頂があるが、外輪山に沿ってとぐろを巻くような千蛇谷と、そこを登ってくるけし粒のような人を見てその景観に感動し、自分もいつか谷の下からここを登ってみたいと強く思った。昨年その思いを実行しようと計画したのだが、天候により中止してしまった。そんなわけで、今シーズン初となる鳥海山の目的は、その計画の再チャレンジにあった。それは鳥海山の数あるルートの中でも屈指のロングルートとされる、鳥越川から千蛇谷を経て新山へと至るルートだ。起点により異なるが、往復約18〜20kmにもなるルートで、標高差も1800m以上となる。そのため残雪期であっても途中でテント泊とし、2日間かける場合も多い。まして厳冬期となれば、綿密な計画と力のあるパーティーに天候も味方しなければ成功は覚束ない。とはいえさすがにこの時期になれば、締まった雪面で距離を稼ぐことが出来るだろう。ワンデイでのピストンも射程距離になってくる。今回は30代の頃にこのルートを日帰りしたというIさんも、別パーティーとして29日から入り、標高1000m付近にテント泊する計画だ。我々は30日の日帰りピストンなので、途中で追いつけば合流する考えであった。
4月29日
 湯殿山から移動して鳥海山へと向かった。象潟の道の駅で夕食を済ませ、湯の台温泉鶴泉(かくせん)荘で汗を流し(300円)さっぱりする。真っ暗な県道象潟矢島線をしばらく走ると「中島台レクリエーションセンターの森」に到着。今日はここの駐車場で車中泊とする。
 4時に携帯の目覚ましで起こされる。途中で何度か目が覚めたが、車中泊は快適でよく眠れた。出発の準備をしていると、近くに昨夜は無かった車が止まっている。女性が出てきてスキーの準備を素早くすると、森の中へと歩いていった。彼女も中島台〜鳥越川ルートだろうか。いずれにしても、単身乗り込んで鮮やかにスタートしていくような女性は、世の中にそれほど多くはない。もしやと思ったが既に森の中に消えていった。山頂を目指したのならこの後に会うかもしれない。我々もスタート地点に移動することにした。中島台〜鳥越川ルートとはいっても、決まった入り口というものがあるわけではない。中島台レクリエーションの森からでもいいし、雪があればどこから歩いてもいいのだが、駐車場所の問題もある。林道を登って鳥越川にある東北電力の取水口手前まで行けば、一番スタート時の標高を稼げる。しかし、そこまで行けるかは除雪などの状況次第。県道から林道へは、何箇所か同じような入り口があるので注意が必要。我々も一度入ったところは雪があって引き返した。入り直した林道を登っていくと、取水口近くで雪が残っていたが、自分のシャコタンワゴンでも終点まで到達できた。転回場所も除雪がしてあるので問題なし。I車はなぜか終点のだいぶ手前の路肩に駐車していた(後で聞いたら雪が消えていなくスタックを心配して手前に駐めたとのこと)。
 準備をしてスタート。ツリーホールは空いているものの、残雪は切れていないので歩くには支障ない。しばらくは獅子ヶ鼻湿原近くの平坦な森の中を進む。ルートを示しているのか赤テープが付けられている。ちょっとした急斜面が現れ直登したが、ここはテープのとおり左から回った方がよかったようだ。ブナやナラの森で緩やかなうねりのある地形を、朝日を左に見ながら歩いていく。いくらも勾配がないので、歩けどなかなか標高は上がらない。しばらくは森のトレッキングを楽しむ。右の鳥越川に左から赤川の支流を合わせ、先すぼまりに狭まる急傾斜の地形の登りで、今朝のものらしい先行者のトレースを見つける。さらに歩いていくと、右手前方に今朝の女性らしき人物を発見。どちらからスタートしようと、時間的にさしたる違いはないようだ。あちらは鳥越川右岸寄りを忠実に歩いていくが、こちらはもう少し西よりを歩いていく。
 やがて少しずつ木が疎らになってくると、鳥海山がはっきりと見えてくるようになる。右手には稲倉岳が見え、目線を左に移していけば蟻の戸渡りから外輪山へと、鳥海山の変化に富んだパノラマが広がる。鳥越川が千蛇谷と呼び名を変え、外輪山に囲まれた新山へと左巻きに昇っていく様は、まさに蛇がとぐろを巻いていくようだ。鳥海山の魅力は南から見た優美な姿と、北から見る荒々しい姿の対比にもあることが分かる。標高1000m付近まで来たので、Iパーティーのテントを探すが視界には入らない。見落としたのか撤収したのかわからないが、いずれにしても先行しているだろう。ここまで来ると、見上げる鳥海山の北斜面が強く意識されてくる。見れば新山のピーク直下から一直線に流れ落ちるような急斜面だ。果たして自分が滑ることが出来るのだろうか。
 1200m辺りで3人パーティーに追いつき追い越す。昨日は雪洞に泊まったのだという。今朝の女性が少し先を歩いていたが、休憩したのでやっと追いつき話しかけることができた。やはりそうだった、ブログでもリンクしているWさんだった。昨年飯豊の門内沢で初めてお会いしたが、その時も彼女はソロでこちらはKさんと2人というのも面白い。この後もWさんとは相前後しながら山頂を目指す。七五三掛(しめかけ)手前の急登あたりでそろそろ疲れが出てくる。Iパーティーもいっこうに視界に入らない。おそらく予定より早出したのだろう。七五三掛手前の急斜面を登り切ると勾配が緩む。右手には岩壁がそびえ、外輪山の内側へと入っていくようになる。千蛇谷は左前方に見える新山を巻くように昇っていく。ゴールは見えているのでもう一踏ん張りなのだが、疲れた足にはここからが長くてきつい。
 登っていくと前方から滑り降りてくる人影が2つ見えた。滑りかたを見るとIさんと同行のSさんのようだ。近づいてくるとやはりそうだった。話を聞けば今朝は5時30分頃にスタートしたらしい。どうりで追いつけないわけだ。2人と別れまた登り出す。新山には千蛇谷に沿って登っていけばいいのだが、新山の西側斜面にしっかり雪が付いていて、そこからも直登出来そうに見えた。登ったことがないルートから詰めるのもいいかと思い、ジグを切って急斜面を登るがこれが失敗だった。山頂直下で傾斜はいよいよ急になり、残り10mほどはスキーを外しキックステップで登るしかなくなる。余分な苦労をしてようやく山頂に到着。続いてKさんが思いのほか時間がかかって到着。頑張り過ぎたのか気持ちが悪いといい、岩に腰を下ろして辛そうにしている。無理は出来ないので北斜面は次の機会かと思う。山頂にいたWさんも千蛇谷を下りていった。次回のため北斜面の状況を見ておこうと北側に寄ると、Kさんがスルスルと北斜面に滑り降りていった。なんだやる気満々じゃないかと後を追う。
 山頂から見下ろす北斜面は素晴らしいの一言。ほぼ一直線に駆け下っている。まるで滑り台のようだ。その先には今朝登ってきた中島台が広がっている。斜面への落ち口に黄色ジャケットの単独男性がいたので話すと、彼もこれから北斜面を滑るのだという。雪の状況を確認すると、いい感じのザラメで問題はない。見る限りでは斜面はフラットで、クラックも入っていない。スキーのトレースもあるようだ。となれば行くしかないだろう。
 山頂直下から斜面に飛び込み、スピードを増して風を切るとターンを刻む。素晴らしいじゃないか、下から見上げたあの急斜面をこうして滑っているのだ。斜面途中で止まっていたKさんまで滑り、後から来た黄色ジャケットの男性と話す。湯沢の方ということで、昨日は仲間がここを滑っているという。北斜面について事前に調べたところ、そのまま滑り降りると鳥越川方向に戻るのが大変になるので、早めに左へのトラバースが必要であり、その場合でもスキーを外して歩いたり、登り返しが必要になるとの情報があった。その男性にも聞いてみると、このまま北斜面の下まで滑っていけるという。実際、遥か下に人影が2つ見えていたが、そこまでは滑ることができるし、戻るにも1箇所ブッシュを越えるくらいだという。北斜面下部から中島台へと続く地形を見下ろすと、細かな起伏もありかなり複雑だ。しかし、地形を上手く利用して雪をつないでいけば、登り返しはあるかもしれないが何とかなりそうに思えた。よし、この北斜面を存分に味わってみよう。北斜面は標高差800mで、平均斜度でも30度を超え、斜面上部は35度以上となる。今この時この斜面は我々だけのもの。思うように自由にターンし高度を下げていく。途中で上からは見えなかったクラックもあったが、問題なくクリアする。Kさんが転倒して流されたが、ザラメなのでやがて止まった。
 斜面を半分以上滑ったところで、黄色ジャケットの男性に戻る方向をあらためて聞くと、どうも話しがちょっと合わない。鳥越川(中島台)ルートから登ったんですか?と聞くと、祓川からだと言う。えっ!祓川へ戻るとは思っても見なかった。もう一度地形図と眼下の地形を確認すると、北斜面下部の少し上からトラバースすれば大丈夫のように思える。黄色ジャケットの男性とは別れ、左側へ滑降ラインを振ることにした。祓川と聞いたときは驚いたが、黄色ジャケットの男性がいなければ、北斜面をこれほど楽しむことはなかっただろう。彼には感謝したい。祓川からの北斜面も滑ってみたいと思う。地形図を見ると北斜面は、赤川の右俣と左俣に挟まれていることがわかる。北斜面下部で左手に見える右俣に向かう。沢底に降りすぎないように注意して源頭部をトラバースする。細かな地形変化が多くなかなかラインを見通せないが、地形図とGPSも駆使し、ラインを見つけながら何とか滑っていくことができる。尾根状の地形ではブッシュもあちこち出ているが、上手く回り込めば雪がつながっていて登り返しも無い。
 徐々に鳥越川方向に寄せていき、標高1100m辺りで登ってきたルートに合わせることが出来た。ふり返って北斜面に別れを告げると、あとは緩斜面をいかにスキーを走らせるかに腐心する。鳥越川に降りて滑ることも考えたが、稲倉岳の東斜面はあちこちブロック雪崩れがあったので、それは考えない方がよさそうだ。時々推進滑降も交えながら緩斜面を下りていく。注意したつもりだが、赤川の支流に入り込んで左岸の登り返しに階段登高したり、獅子ヶ鼻でも雪が切れて行き詰まり強引にスキーのまま戻ったりしてしまう。しかし、結局最後の最後まで1度もスキーを外すことはなかった。山頂北斜面から駐車地点までの、完全スキー滑降が成功したのだ。相方となってくれたKさんと握手をする。林道の下りでお土産にフキノトウを少々いただき、鶴泉荘でゆっくり汗を流してから帰路についた。
 今回を振り返ると、好条件がそろったからこそ出来たことであることがわかる。初めてのルートであり、積雪量、雪質、天候など、どれかひとつでも欠けたらこれほど上手く行くことはなかった。少しでもガスっていれば撤退だっただろう。おそらく1週間遅ければ、中島台もあちこち雪が切れていただろう。そういう意味では、今回の我々は非常に幸運であったといえる。次回があるとしても、今日のようにできるかどうかはわからない。でもまた来てみたい。計画、体力、読図、状況判断、滑降技術など総合力が必要なルートを攻略することこそ、山スキーの醍醐味であり、それこそ自分のやりたいことであるからだ。(K.K)

トラック 登り=赤 下り=青


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