予報はあまり良くないが山スキーに行くことにした。こんな時はピストンルートが適している。ルート状況を確認しながら登り、天候が悪くなったら戻ればいいからだ。そんな理由から安達太良山の迷沢ルートを辿ることにした。ここは強風時でも標高1,500m手前までならあまり風を苦にせず登ることが出来る。なお同行のN山さんは初めての迷沢となる。国道115号の新岩弓橋手前の駐車スペースに着くと他に車はなかった。いつもなら同好の士の車が数台はあるのだが天候で嫌われたのだろうか。スタートして仏沢の橋を渡り迷沢はしっかりしたブリッジがあり難なく渡渉した。作業道なりに登っていくが気温も高めですぐ暑くなりジャケットを脱ぐ。今のところ天候も落ち付いていて特に問題はない。今シーズンの積雪は豊富とまでは言えないが山スキーには充分の量で軽いラッセルで進んでいく。昨日のものと思われるトレースも残っている。微妙な気温からシールのダンゴを心配したがそんなことも無く順調である。
1,200mを超えたあたりから徐々にガスがかかり樹林の中を登るようになるとさらに濃くなる。北斜面基部に着く頃には視界は数十mになっていた。ほぼ見えない北斜面(実際は北西向き)は急斜面左端にジグを切って登る。斜度が緩み1,500m以上はさらに風雪も加わった。いつもならこの辺りで引き返すのだが、まだ余裕のある相方を見て予定通り鉄山避難小屋を目指すことにした。濃いガスの中わずかに見える地形や樹木を頼りに迷沢の源頭部を登る。視界があれば容易だが今日は真っ白な世界を手さぐりで歩くしかない。プロペラの碑(しゃくなげの塔)を見つけるとひと安心。このまま東に進めば鉄山避難小屋がある。そろそろ着くはずと思いながら進むと目の前まで来てやっと小屋が識別できた。小屋に入ると中の温度計はマイナス2度。やはり今日は気温が高い。昼食後に小屋から出ると戻り足だがさらに風が強くなったように感じる。
復路はまともに向かい風となる。小屋から離れればかろうじて見えるのは足元のシュカブラだけになった。ガスと風雪に翻弄され地形の微妙な変化にも惑わされて方向を見失った。ふと気が付くと背中から風が当たっていることに気づいた。GPSで現在地を確認すると逆方向に歩いている。いつの間にか回ってしまったのだ。もう一度コンパスで西を確認し歩いていく。雪面の傾斜すら分からず足さぐりのような感じでそろそろとしか進めない。何度もコンパスで方位を確認しながら慎重に下る。時々GPSで現在地を確認したが厳しい風雪の状況ではスマホのGPSは操作性に難がある。方位を正確に示してくれるコンパスの重要性を再認識した。進路の確認に集中しカメラを取り出す余裕もない。下降していくと徐々にガスも薄れ樹木も見えてくる。1,500m辺りまで来るとひと安心だ。後でタイムを見ると1,500mから鉄山避難小屋間は登りが45分で下りが78分で下りでかなり苦労したことがわかる。北斜面を滑り降りて樹林の軽い雪にスキーを走らせる。新しいスキーのトレースがあったが既に戻ったようだ。迷沢を渡渉するとシールを貼って駐車地点へと戻る。我々の車がぽつんと1台だけ。こんな日に小屋まで登ったのは我々だけだった。
迷沢は地形が複雑で視界の無いときは特に注意が必要である。迷沢という名称から推して知るべしである。深雪で沢に迷い込むと脱出が困難な場合もある。箕輪山から鉄山避難小屋周辺は強風のことが多く濃いガスも頻繁に発生する。地形が平坦で目標物に乏しいため視界が無くなると簡単に進路を見失ってしまう。登山でもスキーでも過去に何度も遭難が発生しており、前日の2/6には箕輪山で現在地が分からなくなり救助要請した登山者もいたようだ。ホワイトアウトで現在地の確認にはGPSが有効だが悪天候下ではかなり画面が見にくい。方位を確認しながら進むにはコンパスが確実である。(熊)